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パリ左岸のピアノ工房

「私の頭をかすめたのは小型のアップライトで、黒いラッカー塗装に多少の疵はあるものの、アクションは完璧で奇跡的なくらい安いピアノのイメージだった」

という一文のあとに、「これは子供のために良質な中古ピアノをさがしている親のだれもがいだく夢物語だった」と続く。

これはこの本の冒頭でもなく、とくに印象的な場面でもないシーンでぽつりと主人公がつぶやいたセリフなんですが、ぼくにはなぜかこのセリフが、大きな起伏もなく淡々 と進む、詩的と言ってもいいこのピアノにまつわる物語の中で一番印象に残り、もちろんその理由は自分が子供の為でなく、自分の為にピアノを選ぶときに思う ことと一緒だったからなのですが。

幸いにもこの本の主人公はウィーンのシュティングル社というメーカーの、無骨ではありながら自分の手にぴったりの素敵な楽器を手に入れ、さらに物語はピアノを手に入れた物書きの主人公とピアノ工房の若き主人を中心に、ピアノを酒飲みではあるものの酒を飲まなければ腕は一流の調律師、ピアノから一時離れていた主人公のレッスンを請け負ったレバノンからの亡命者であるピアノ教師など、いかにも個性的でピアノを 愛する人々との関わりを中心に進んで行きます。

パリに住む個性的な人々を中心に描きながらも、フランス的になりすぎずどこか一歩引いた客観的な目線があるのは主人公がアメリカ人だからでしょうか。

読んだ後、ピアノを置く事が出来ない借家住まいなのに、お気に入りの中古ピアノを探してしまったのは言うまでもありません。

paris_piano_little.jpgパリ左岸のピアノ工房
T.E.カーハート 村松 潔訳
新潮クレスト・ブックス










author:anonyme 09-11-23

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